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「近いうちに、また」
霊斬は苦笑した。
その日の夜、突然、傷跡が熱を帯び始めた。
霊斬は身支度をなんとか整えると、四柳の診療所へ向かった。
「なんだ!」
「俺だ」
そう言うと怒りを引っ込めた四柳は、戸を大きく開いた。
四柳の後に続いて入ると、歩きながら問いかけられた。
「それで、どうした?」
「傷が熱を持っている。少し、気になってな」
奥の部屋へ着くと、四柳が言った。
「診せろ」
霊斬は上着を脱ぎ、左腕を突き出す。
腕に手を当て、熱があるのを理解する。
四柳は晒し木綿を外して、薬草を塗った布をめくる。
初日ほどではないにしろ、まだ出血は収まっていなかった。
四柳は薬研の中に複数の薬草を放り込み、混ぜ始める。
手を動かしたまま、口を開いた。
「他は痛まないか?」
「ああ」
霊斬はうなずく。古傷だらけの上半身を晒しながら。
四柳は内心で言葉を続ける。
――嘘だろうに。それだけの傷を負って、心が痛まないわけがないだろう。少なくとも、おれだったら、精神的苦痛に耐えられる自信はない。こいつは、拷問にすら耐えて見せた男だ。もしかしたら、自身の痛みを他人事のように捉えているのか? 霊斬ならやりかねない。診ていて、どこか他人事のようだと、常々感じていた。
「霊斬よ、お前、精神的な苦痛を味わったことはあるか?」
「拷問以外でなら、もう思い出せない」
霊斬はなんでそんなことを聞くんだと、顔に書いてあったが、静かな声で答えた。
「最近、過去のことを思い出して、苦しんだりはしないか?」
「昔に比べたら、まだましだ」
霊斬はぼそっと告げる。
「そうか」
――まるで、身体が見えない心の傷をあらわしている。そんな気がする。
四柳はそう思いながら、混ぜ合わせた薬草を布に塗った。
手当てを進めながら、霊斬の身体を労わる四柳だった。
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