第五章 団子屋

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「近いうちに、また」  霊斬は苦笑した。  その日の夜、突然、傷跡が熱を帯び始めた。  霊斬は身支度をなんとか整えると、四柳の診療所へ向かった。 「なんだ!」 「俺だ」  そう言うと怒りを引っ込めた四柳は、戸を大きく開いた。  四柳の後に続いて入ると、歩きながら問いかけられた。 「それで、どうした?」 「傷が熱を持っている。少し、気になってな」  奥の部屋へ着くと、四柳が言った。 「診せろ」  霊斬は上着を脱ぎ、左腕を突き出す。  腕に手を当て、熱があるのを理解する。  四柳は晒し木綿を外して、薬草を塗った布をめくる。  初日ほどではないにしろ、まだ出血は収まっていなかった。  四柳は薬研の中に複数の薬草を放り込み、混ぜ始める。  手を動かしたまま、口を開いた。 「他は痛まないか?」 「ああ」  霊斬はうなずく。古傷だらけの上半身を晒しながら。  四柳は内心で言葉を続ける。  ――嘘だろうに。それだけの傷を負って、心が痛まないわけがないだろう。少なくとも、おれだったら、精神的苦痛に耐えられる自信はない。こいつは、拷問にすら耐えて見せた男だ。もしかしたら、自身の痛みを他人事のように捉えているのか? 霊斬ならやりかねない。診ていて、どこか他人事のようだと、常々感じていた。 「霊斬よ、お前、精神的な苦痛を味わったことはあるか?」 「拷問以外でなら、もう思い出せない」  霊斬はなんでそんなことを聞くんだと、顔に書いてあったが、静かな声で答えた。 「最近、過去のことを思い出して、苦しんだりはしないか?」 「昔に比べたら、まだましだ」  霊斬はぼそっと告げる。 「そうか」  ――まるで、身体が見えない心の傷をあらわしている。そんな気がする。  四柳はそう思いながら、混ぜ合わせた薬草を布に塗った。  手当てを進めながら、霊斬の身体を労わる四柳だった。
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