第六章 小料理屋

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(とく)(すけ)と言います。呉服問屋の次男です。江戸で一番大きいお店だそうです」  名を告げた後、女は懐から財布を取り出し、銭五枚を差し出した。 「これだけで頼むのは、とても、恐縮ですが……」 「いえ、構いません。それよりも確かめたいことがございます」  霊斬は銭を受け取り、袖に仕舞うと、女に視線を向けた。 「確かめたいこと……ですか」 「はい。人を殺めぬこの私に頼んで、二度と後悔なさいませんか?」 「後悔は、しません」 「では、七日後にまたお越しください」  霊斬は告げると頭を下げた。  霊斬は女が帰った後、千砂がいると思われる隠れ家に足を向けた。  もう日が傾き始めており、西日を背に受けながら歩く。  すれ違う者の中には知り合いもおり、霊斬はときどき会釈をしながら、歩いていった。  隠れ家に着き、霊斬は閉まっている戸を叩く。 「はいよ、あんたかい」  千砂はそれだけ言うと、戸をさらに開け、身を引いた。 「忙しいところ、悪いな」  霊斬が言いながら、隠れ家に足を踏み入れ、戸を閉める。 「あんたにそんなこと言われると、なんだか気持ち悪い」  千砂は苦笑した。 「……そうかよ」  霊斬は溜息を吐いた。 「それで? 今回は?」  奥へ進み、床に正座をした千砂は、尋ねた。 「分かっていたのか」 「あんたが依頼以外で、ここにきたことあるかい?」  千砂が苦笑する。 「ないな。今回は呉服問屋の男、徳助。依頼人は小料理屋の娘」 「武家じゃないのかい。珍しいね」  千砂が目を丸くする。 「そうだな、どれくらいかかる?」  その言葉を流した霊斬は、そう尋ねた。 「二日」 「分かった。……それと、役に立つかどうか分からんが、江戸で一番大きな呉服問屋だそうだ」  霊斬はそういえば、というくらいの軽い気持ちで付け足した。 「なら、一日ですむよ。なんでもっと早く言わないんだい?」  千砂は溜息を吐いた。 「その情報がそんなに大事か?」
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