第一章 酒屋

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「話は以上になります」  女は固い声で告げた。 「ありがとうございます」 「それから、これを」  女は懐から、小判十両を差し出した。  霊斬はその代わりに、修理した短刀を差し出した。  霊斬は頭を下げて金を受け取ると、袖に仕舞った。 「では、決行後にお会いしましょう」  女はそれを聞くと、短刀を大事そうに仕舞い、店を後にした。  決行日当日、霊斬はいつもの着物から、黒の長着に同色の馬乗り袴、黒の足袋、同色の羽織(はおり)を身に着ける。隠し棚から黒い刀を取り出して腰に帯びる。霊斬はこれを黒刀(こくとう)と呼んでいる。黒の布を首に巻いて、顎から鼻まで引き上げる。草履を履いて伊佐木家に向かった。  その道中で、忍び装束姿の千砂に会い、一緒に伊佐木家へ向かった。  辿り着くと、霊斬は正面から、千砂は屋根裏から侵入する。 「曲者だ~!」  という大声を聞きながら、霊斬は動じることなく倒す。  五人ほどの敵が姿を見せる。全員刀を抜き、腕を斬られた仲間を横目に、徐々に距離を詰めてくる。自分もこんな目に遭うのかという思いがあるからか、誰も斬りかかってこようとしなかった。  霊斬は素早く動いて距離を詰めると、全員の右腕に狙いを定め、次々に斬りつける。 「ぐあっ!」  予想していなかった痛みに呻き、五人は動きを止める。  その間を縫うように駆け抜け、霊斬は奥の部屋を目指した。  奥の部屋へ続く襖に手をかけた瞬間、首に冷たい感触があり、霊斬は動きを止めた。視線を動かすと、霊斬と同い年くらいの男に刀を突きつけられていた。 「簡単にはいかせん」  男は言いながら、刀を引いた。  霊斬は黒刀を持ち直し、男の右腕を狙って振り下ろした。しかし、その攻撃は男の刀に阻まれる。  霊斬は忌々しげに舌打ちをしながら、距離を取り、再度突っ込んでいく。阻まれるも、強引に黒刀を振り下ろした。壁となっていた刀は男の手を離れる。無防備になった右腕をざっくりと斬り裂いた。鮮血が飛び散る。 「ぐうっ!」 「これ以上貴様に、構っている時はない」  霊斬は冷ややかに吐き捨てると、襖に手をかけた。
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