4人が本棚に入れています
本棚に追加
霊斬の店の裏側で二人は話していた。
「あれから、徳助はどうだ?」
「もう慣れましたけれど、暴力が酷いです」
依頼人はそう言って、腕をまくって見せた。腕は痣だらけになっており、直視するのも憚られるほどだった。
「明日にはなんとかする。夜になったら、徳助を連れ出してくれ、ここに。後のことは気にするな、その足で医者にでもいくといい」
「……分かりました」
短い会話を終わらせると、霊斬はその場を去った。
その足で隠れ家に向かった霊斬は、戸を叩く。
「なんだい?」
家の中に入るや、霊斬は立ったまま言った。
「決行は明日の夜。場所は俺の店の裏だ」
「いいのかい? 変に疑われるかもしれないよ?」
千砂の心配は最もだが、それくらいどうとでも誤魔化せる。
「気にするな」
「……分かったよ。屋根の上から見させてもらう」
霊斬はうなずくと隠れ家を後にした。
決行日当日の夜、黒の長着に同色の馬乗り袴、黒の足袋、同色の羽織を身に着ける。隠し棚から黒刀を取り出して腰に帯びる。黒の布を首に巻いて、顎から鼻まで引き上げる。草履を履いた霊斬は、店を出た。
依頼人と待ち合わせた場所で、物陰に隠れて待ち構えていた。
「こんなところに連れてきて、いったいなんなんだ」
不満そうな男の声が、続いて女の声が、聞こえてきた。
「ちょっと待っていて」
その言葉に従った男から女は距離をとるとそのまま逃げ出した。
女がいっこうに戻らないことを不思議に思いつつも、男はその場に突っ立っていた。
「なにしているんだ、あいつは……」
男が溜息を吐く。
霊斬がちらりと上を見ると、見下ろしている忍び装束姿の千砂と目が合った。
それをなにごともなかったかのように無視し、霊斬は声を出した。
「人を待っているのか?」
「……ああ」
驚いたふうの男の前に、霊斬は姿を見せるも、真っ黒のため、目しか分からない。
「実は俺も、人を待っている」
「そ、そうなのか。あんたは誰だ?」
怪しいと思ったのか、男が警戒する。
「答える必要はない。貴様にひとつ、聞きたい」
霊斬は冷ややかな声で吐き捨てた。
「答えられることなら」
「徳助、か?」
「どうして名を……」
その言葉を遮って、霊斬は声を出した。
最初のコメントを投稿しよう!