第六章 小料理屋

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「答えろ」 「そうだ」  霊斬はそれだけ聞くと、ゆっくりと刀を抜き、背に隠す。 「それからもうひとつ。どうして貴様は暴行をやめない?」 「……あれは僕のものになる、女だ。どう扱おうと僕の自由だろう」  なぜそれを知っているのかと怪しみながらも、徳助は答えた。 「貴様は勘違いをしている」 「勘違い?」  徳助が首をかしげる。 「それがいいことではない、ということだ。人を奴隷のように扱おうものなら、少なくとも、声のひとつやふたつ、上がるものだ。だから、こうして俺がいる」 「……自分が()いた種、とでも言うのか?」 「そうだ。そしてその行為には必ず報いがある。貴様だけが許されることではない」 「僕を殺すのか?」  その問いに霊斬は首を振った。 「いいや、違う」  霊斬は話に付き合うのに疲れたのか、背に隠していた刀をずるり、と出す。  徳助の怯えた表情を見た瞬間、霊斬はあっという間の距離を詰め、徳助の右肩を刺し貫いた。 「あああ!? い、痛い……」  悲鳴を上げた男に対し、霊斬は大きな溜息を吐いた。  徳助の胸倉をつかんで、壁に叩きつけ、右肩を抉る。  大いに叫んだが、霊斬の動きは止まらない。  刀をそのままに、腹や頬を殴り始めた。その動きはどれも隙がなかった。霊斬の繰り出す一撃はどれも重く、男が情けない声を出すのは一分もかからなかった。 「もう……やめてくれ」 「いいだろう、だがな、貴様はその発言すらも許さなかった。貴様が自分のものだと言った女の気持ちが、いくらか分かっただろう。改めなければ……命はないと思え」  霊斬は冷ややかな声で言った。 「……ああ。あいつには、ちゃんと、謝るから、もうやめてくれ……!」  懇願する男から刀を抜いて、鮮血を振り落とし、鞘に仕舞うと店に戻った。  千砂は徳助がふらふらしながら、通りを歩いていくのを見送ってから、その場を去った。  翌日の昼間、依頼人が顔を見せた。 「ありがとうございました」  依頼人は床に腰を下ろすや、礼を口にした。 「あの後、どうでしたか?」  霊斬が尋ねると、女が少し安心したように答えた。 「傷の手当てもせずに、土下座をして謝ってきました。どうやら心を入れ替えたようです」 「そうですか」 「本当に、ありがとうございました」  依頼人は言いながら、銭五枚を差し出した。  霊斬は苦笑しながら銭を受け取り、袖に仕舞った。 「またのお越しをお待ちしております」  霊斬は頭を下げた。
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