第七章 遊郭

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「凄い活気……」 「驚いたか?」  霊斬がどこか嬉しそうに尋ねてくる。 「まあね」  千砂が苦笑する。 「ちょっと、待ってろ」  霊斬はそう言うと近くの屋台に向かって歩いていった。  千砂は賑やかな大通りに視線を向けながら、心が浮き立つのを感じていた。  ――祭りに参加するのは、生まれて初めてだったから。 「そこのお嬢さん」  なにやら良からぬ気配を感じ取った千砂は、突然あらわれた男に目を向けるも、一言も発さなかった。  男が手を伸ばしてくる。それから逃れようと一歩身を引いた千砂だったが、近くの家の壁にぶつかってしまい、逃げ場を無くす。  男の下卑た顔が見えた瞬間――それを止める声があった。 「そこまでにしてくれ」  近づいてきた霊斬が言うと同時に、右足で男に向かって蹴りを入れた。 「ごふっ!」  腹の痛みに呻いて地面に座り込んだ男を、霊斬は冷ややかな目で睨みつける。 「失せろ」  霊斬が告げると、男が忌々しげに呟いた。 「男連れかよ、くそっ!」  男が腹を押さえながら、去っていくのを見送っていた千砂に、霊斬が声をかけた。 「ほら、食べるといい」  霊斬が小脇に抱えていた小さな包みを、千砂に渡してきた。 「あんたってさ、器用だね」  それを受け取りながら、千砂は思う。  中身を落とすことなく、あんな隙のない蹴りを繰り出せることに。 「これ、団子かい?」  千砂が聞いた。 「ああ、とりあえず、三色団子にしてきたが」  霊斬が言いながら、団子を頬張る。 「怒らないから心配しなくてもいいのに」  微笑んで千砂が言い、団子を一本手に取り、口に運んだ。 「大丈夫か」  霊斬は、唐突に尋ねた。 「さっきの男のことかい?」  霊斬はうなずく。 「平気だよ、あたしもだいぶ気が緩んでいたようだね。……引き締めないと」 「今日のところは、そのままでいい。せっかくの祭りなんだ、心ゆくまで楽しめばいい。俺が危険をすべて引き受けるから、気にするな」  普段より幾分か優しい口調で言う霊斬に、千砂は思わず微笑んだ。 「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」 「お囃子が始まったぞ」  その言葉の通り、二台の舞台が、それぞれに曲を奏で始めた。 「この舞台が弾いているのが、原曲だ」 「他にもあるのかい?」  千砂の問いに霊斬がうなずく。  その曲が終わるまで、二人は団子を食べながら、聴いていた。
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