4人が本棚に入れています
本棚に追加
二人は、食べ終わった串を捨てて、通りの奥にある舞台へと歩き出す。
「ここの舞台は、編曲されている」
霊斬の言うとおり、先ほど聞いた曲とは少し違っていた。
法被姿の子ども達が近くを駆け抜けていく。
その様子を見送りながら、千砂は微笑んだ。
「詳しいじゃないか。何度かきたこと、あるのかい?」
「店が経つまでの間、祭りをやっていたから見にいった。……それだけだ」
「そうかい」
千砂はうなずくと、お囃子の音色に耳を傾けた。
「中で弾いているのは、子ども達かい?」
しばらくして千砂が口を開いた。
「ああ、まだ舞台が着いたばかりなんだろう。これが終われば交代のはずだが」
霊斬の言うとおり、それまで舞台の周りで談笑していた男達が次々に舞台の中に入っていく。
霊斬は千砂の肩を叩いて、傍にくるように示した。
疑問に思いながらも、霊斬の後に続くと、舞台の中が少し見えた。中は床で、人でぎゅうぎゅう詰めになっている。男達は持っていた横笛を構えて曲を奏で始めた。
太鼓と鐘の音、横笛の音が聴いていて心地よい。
――きてよかった。
千砂はそう思いながら、お囃子に耳を傾けた。
霊斬は千砂の横顔を見ながら、思う。
――少しは、楽しんでもらえただろうか。
「これからどうする? 舞台が引き上げるまで、最後まで見ていくか?」
「あたしは満足だよ。どちらでも構わないさ」
千砂は微笑んで答えた。
「じゃあ、のんびりと帰るとするか」
千砂と肩を並べて、霊斬は歩き出した。
「こういう夜も、いいもんだね」
歩きながら、千砂が言う。
「そうだな」
霊斬もうなずく。
霊斬はのんびりとしたふうを装いながら、周囲を警戒していた。
人通りが少なくなってくると、彼の中の警鐘が鳴り響く。
霊斬は歩いていた千砂の肩に手をかけ、引き留めると、なにごとかと振り返った彼女を自分の背に回してから、声を出した。
「さっきからずっと俺達を見ているようだが、なに用か?」
暗闇に向かって、霊斬が尋ねた。
「ばれてしまったのなら、仕方ありませんねぇ」
言いながら、暗闇から姿を見せたのは、着物の胸元を大きく開いた、一人の遊女だった。
「あなた達に、ひとつお願いがありまして」
女は言って妖艶な笑みを見せた。
そのまま立ち話をするわけにもいかず、三人はひとまず霊斬の店へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!