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奥の部屋に、霊斬と千砂は女と向き合うように座り、霊斬が口を開いた。
「俺達になにを頼もうって言うんだ?」
「その前に確認させてくださいませ。あなたが因縁引受人霊斬様で」
女は霊斬に視線を向けた後、千砂に移した。
「あなたが、烏揚羽様で、よろしいですか?」
「いかにも」
霊斬が言うと同時に、千砂もうなずく。
「端的に述べさせていただきます。遊女の扱いが上手すぎるお客様がいまして、その方がこれ以上つけ上がらないようにしてほしいのでございます」
霊斬はしばらく考えた後、口を開いた。
「手は尽くしたがつけ上がる一方で、ここへ?」
「……はい」
「私達の名は、どこでお知りに?」
霊斬は警戒しながら尋ねた。
「お客から……としか申し上げられません」
「そうですか。では、こちらからもひとつ、確かめたいことが」
霊斬の静かな声でうなずいた女は、言葉を続けた。
「なんなりと」
「人を殺めぬこの私に頼んで、二度と後悔なさいませんか?」
「はい」
遊女には似合わぬ……失礼。
強い決意を感じ取り、霊斬は内心で溜息を零した。
「分かりました。では、その御方の名を」
「備前崔と、申します」
「では、七日後、またお越しください」
「はい、それからこれを」
女は言い、懐から小判五両と懐刀を取り出し、差し出した。
「確かに」
霊斬は言いながら受け取ると、小判を袖に仕舞った。
女が帰った後、千砂が口を開いた。
「備前家だね。明日にでも調べて……」
「明日は駄目だ」
千砂の言葉を霊斬は遮った。
「どうしてだい?」
「まだ祭りの半分しか見ていない」
千砂は嘘でしょ! というような顔をして、霊斬を見つめた。
「明日もなんかあるってのかい。あたしは今日で十分のように感じたけれど?」
霊斬は苦笑する。
「そりゃあ、生まれて初めて祭りを見たってんなら、そうもなるな。明日の方がもっと、楽しめるぞ」
「じゃあ、期待しておこうかね」
「明日の朝、日が昇ったときに、店の前で」
「分かったよ」
千砂は苦笑して、店を後にした。
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