4人が本棚に入れています
本棚に追加
千砂は急いで中に入る。
それを見た霊斬がぴしゃりと戸を閉めた。
並べられた商品の間を抜け、客と話す部屋まで千砂を連れていくと、霊斬は胡坐をかいて座った。
「それで?」
霊斬は先を促す。
千砂は本題を切り出した。
「桐野光郎は依頼人を殺めようとしている」
「いつだ?」
「明日の昼かもしれない。夜には報告しにいくだろうから」
「分かった」
霊斬はそれだけ聞くとうなずいた。千砂はその言葉を最後に、店を去った。
翌日の昼近く、霊斬は店を閉めた。念のため、短刀を懐に忍び込ませると、米問屋へ足を向けた。
米問屋が見える斜向かいの店の間、物置と化した場所に身を滑り込ませた。壁に寄りかかり、様子を窺う。
多くの人が出入りする米問屋の客の中で、一人、僅かながら雰囲気の違う若い男を見つける。
見た目では静かな印象を受ける男だが、その裏に殺気という刃を持っていそうな……。
勘でしかないが、無視できない。
霊斬は男の後に続いて、店に入った。
その直後、悲鳴が上がる。
「きゃー!」
慌てて視線を走らせる。と、小太刀の刀身をこの店の主の首に突きつけている若い男と、先ほど叫んだであろう、主と同い年くらいの女。数名の客と、手代達が動きを止めていた。
――真昼間からとはな。普通、夜だろうに。
霊斬は内心で溜息を吐きながらも、念のためにひとつ策を考える。大したものではないが、この状況を変えられる。
「おい、用があるのは主だけだろう? 他の奴らは外に出してやったらどうだ?」
「うるさい!」
若い男は、主でなく霊斬に刃を向ける。その隙に主が拘束を脱する。
忌々しげに舌打ちをした若い男は、霊斬に向かって小太刀を振りかざし、突進してくる。
それをひらりと躱すと、置いてあった米俵に激突した若い男はそのまま気絶してしまう。
――馬鹿にもほどがある。
霊斬は盛大な溜息を吐く。すると岡っ引きが顔を出す。
「あれ? 刀を振り回している奴がいるって言うんできたんだが、遅かったか?」
「むしろ、ちょうどいいです、親分。米俵に激突して気絶している男ですよ」
「そうかい。あんた、怪我、してないか?」
岡っ引きはその男を縄で縛りながら聞いた。
「私を含め、怪我人はいません」
「そりゃなによりだ」
岡っ引きは男を半ば引き摺るようにしながら、店を後にした。
霊斬は店の者達に一礼すると、店を去った。
その様子を物陰から顔を覗かせる千砂に気づいた霊斬だったが、気づかないふりをして米問屋を去った。
最初のコメントを投稿しよう!