ゴスペル

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 小学生の博(ひろし)は先日、両親を亡くした。交通事故だったという。祖父や祖母はすでに死んでいるので、身寄りがみんないなくなってしまった。博は両親のいる同級生を見るたびに、うらやましく思う。どうしてそんな家庭に生まれてしまったんだろう。もっといい家庭に生まれればよかったのに。そう思う日々が何度あった事か。だが、両親の分も一生懸命着なければならない。そう思うと、また生きようと思えてくる。  下校の時間になり、宏は家に帰ろうとした。だが、家に帰っても、誰も迎えてくれない。1人でいるだけだ。 「さようなら」 「じゃあね、バイバイ」  博は友人に手を振った。 「バイバイ・・・」  博は校門の前で友人と別れた。ここからは1人で帰る。寂しいけれど、近所の人が支えてくれる。だが、やっぱり両親がいいな。もし願いが叶うなら、また両親に会いたいのに。もう会えない。そう思うと、泣けてくる。 「はぁ・・・。これから僕、どうすれば・・・」  博は落ち込んでいた。だが、落ち込んでばかりではいられない。前を向いて生きていかないと。だが、両親を亡くしたショックからはなかなか立ち直れない。どうすればいいんだろう。 「近所の人が世話をしてくれるって言ってるけど・・・」  と、後ろから誰かが肩を叩いた。博は不意向いた。そこには啓介(けいすけ)がいる。 「博、元気出しなよ。頑張っていけばいいじゃないか!」  同級生の啓介は、落ち込んでいる博の事が気になった。人生はこれからなのに、どうして落ち込んでいるのか。 「そうだけど・・・」  と、啓介は笑みを浮かべた。こんな事があったのに、どうして笑っていられるのか。不思議でたまらない。 「元気出せよ!」 「うーん・・・」  だが、宏は立ち直らない。啓介は頭を悩ませている。  それは1か月ぐらい前の事だった。いつものように両親は買い物に行っている。博は友達とテレビゲームをしている。いつもの日常だ。このままこんな日々が独り立ちするまで続けばいいのにと思ってしまう。  だが、突然電話が鳴った。どうしたんだろう。両親からだろうか?全く想像がつかない。博は受話器を取った。 「もしもし」 「博くん、お父さんとお母さんが交通事故に遭ったんだって」  それを聞いて、博は驚いた。まさか、両親が交通事故に遭うなんて。まるで悪い夢を見ているかのようだ。  博はすぐに病院へ向かった。その病院は、家からすぐの所だ。両親は無事だろうか? 博は不安でいっぱいだ。どうにか生きていてほしい。また家族団らんで過ごしたい。若くして置いていかないでほしい。  博は病院の前にやって来た。だが、博が入ろうとすると、1人の医者がやって来た。両親の治療をしている人だろうか? 「えっ!?」  博は驚いた。どうして医者が近づいてきたんだろう。全くわからない。 「あっ、博くん・・・」 「どうしたの?」  その時、博は思った。きっと、両親に何かあったに違いない。だが、死であってほしくない。 「こっち来て・・・」  博は呆然となっている。どこに連れて行くんだろう。全くわからない。  博がやって来たのは、地下だ。地下にいるなんて、どういう事だろう。地下のとある部屋に入ると、そこには白い布を顔にかぶせた2人がいる。それを見て、博は言葉を失った。両親が出かけた時の服装と一緒だ。まさか、これが両親だろうか? 「これがお父さんとお母さんよ」  医者は白い布を取った。そこには目を閉じている両親がいる。両親は息絶えていた。 「お父さん! お母さん!」  だが、両親は起きない。ゆすっても、叩いても、全く起きない。博はその場に泣き崩れた。置いていかないでよ! だが、何度叫んでも、両親は戻ってこない。  博は帰り道を1人で歩いていた。実家は広い通りから左に曲がった所にある。この辺りには教会があるが、ここ最近、誰も出入りした形跡がない。 「うーん・・・」  その時、教会から歌声が聞こえてきた。何だろう。 「オーハッピーデー、オーハッピーデー」  博は思わず立ち止まってしまった。いい歌だな。誰が歌っているんだろう。興味をそそられる。 「ん? 何だろう・・・」  博は教会に入った。そこには、何人もの男女がステージに上がり、歌っている。そして、左右に動いている。一体何を歌っているんだろう。 「えっ、この人たちは・・・」  博は席に座って、その様子を見ていた。少し帰りが遅くなってもいい。ここでちょっと聞いていこう。  ふと博は思った。この人のように、楽しそうに歌ってみたいな。歌えたら、悲しみを忘れる事ができるのに。 「こんな人たちみたいに、明るく歌ってみたいなー」  次第に博は眠くなって、眠ってしまった。  と、彼らの前で指揮をしていた人が、博の元にやって来た。そして、眠っている博の肩を叩いた。博が目を覚ますと、そこには指揮をしている人がいる。博は首をかしげた。どうしたんだろう。 「一緒に、歌いませんか?」 「いいの?」  博は戸惑っている。まさか、誘われるとは。 「い・・・、いいですけど・・・」  博は戸惑いの中、彼らと同じステージに立った。彼らの視線が気になる。博は緊張している。  だが、博は歌い出した。誘ってもらったのだから、一生懸命歌わないと。 「オーハッピーデー、オーハッピーデー」  博の声は次第に大きくなっていった。どうしてだろう。みんなが歌っているから、自分もこれぐらいの声で歌おうと思ってしまうんだろうか? 「その調子! その調子!」  そう言われると、博は徐々に気持ちが高ぶり、もっと歌ってみたくなかった。  歌はあっという間に終わった。博の表情は、明るくなった。歌っただけで、こんなに変われるなんて。 「一緒に歌ってくれて、ありがとう!」 「いえいえ。そんなに歌、うまくないし」  博は照れている。まさか、こんなに褒められるなんて。音楽の実力は普通なのに。どうしてだろう。 「いいよいいよ。これからだよ」 「そう、かな?」  だが思った。これで自分は明るくなれた。そして、両親がいなくても頑張っていこうという気持ちになれた。 「人生まだまだ。頑張って!」 「うん!」  彼らは博を励ましているようだ。そう思うと、彼らのためにも頑張らなければと思えてくる。 「どうしたの? 教会にいて」  啓介の声で、博は目を覚ました。どうやら夢を見ていたようだ。教会には啓介以外、誰もいない。では、彼らは誰だったんだろう。博は首をかしげた。 「何でもないよ」 「ここにはもう誰もいないのに」  と、博は教会の入り口で、1枚の写真を見つけた。そこには、ステージで歌っていた人々がいる。まさか、彼らは幽霊だったのかな?
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