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プロローグ
目覚ましで起きたと思ったら、メッセージアプリの振動で起きたようだった。
御崎正寅は目をこすりながら、一体こんな早朝に誰が何の用だとスマホを掴んだ。
『帰国しました。早速ですが次の土日はお暇ですか?』
正寅は眉間にシワを寄せ、その文字を見つめた。
頭が一瞬空白になり、それからフル回転し始めた。
慎重に文章を考える。
『すみません、来週末まで仕事で出張中で。大阪に来られるんですか?』
正寅は、既に何度も作っては修正している、大阪のうまいもんリストと、妹の琴葉による厳選おしゃれカフェリストをメモ帳からコピーした。
すると彼女から返信が来た。
『大阪はいずれ。今回は仙台で』
「え?」
正寅は辺りを見回した。あれ、なんでバレてる?
『優子さんが予定を教えてくれました。私、仙台在住なんです』
「は?」
正寅はまた声を出してしまった。なんで桜庭優子が彼女とつながってるんだ。なんで下の名前で呼ぶぐらい親しくなってんだ? で、在住ってことは、すぐそこの駐屯地かどっかに彼女は住んでるってことか?
『偶然ですね』
と打って、正寅は気を取り直した。これはチャンスだ。
『仙台は未調査なので、今からおいしい店を調査します』
『私が案内しますよ』
その文字を見て、正寅はスマホを両手で握りしめた。そしてじっと考える。
罠かな。
いや、それでもいいや、と正寅は思った。
『実は、暇で困ってました』
そう返すと、笑ったスタンプが押された。
『おすすめのお店、予約しないといけないので、取れたらもう一度連絡しますね』
そうやって連絡は一旦終わり、正寅はもう一度スマホを見返した。
夢……ではなさそうだ。
「エマちゃんとデートするんだって?」
災害救助隊の仙台事務所に入って、救助訓練の計画書を確認していたら、桜庭が隣にやってきて正寅の脇腹をつついた。
「罠かもしれない。また自衛隊にうまく使われるのかも」
正寅が言うと、桜庭はヘラヘラ笑った。
「というか、仙台中の自衛官に妬まれるよねぇ。貴重な若い女子を災害救助隊に奪われて。後ろから撃たれるかもね、トラ」
「そのときは、彼女が守ってくれる。たぶん」
正寅が言うと、桜庭はうなずいた。
「それもそうだね」
「それより、なんで班長が彼女と俺より親しいのかが謎だ」
「部下のプライベートも把握しておかないとね」
「そんな義務はないだろ」
「トラには幸せになってほしいんだよ、これ、本心ね」
桜庭はそう言って、正寅の背中をパシッと叩いて去っていった。
正寅は苦笑いで計画書に目を戻し、来週の『合同訓練』ってヤツに彼女は参加するのかなとニヤついた。
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