1 〜3ヶ月前〜

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 *  正寅が倒壊したホテルに到着すると、拡声器を渡された。  長ったらしくトルコ語でいろいろ説明されたが、そのほとんどは聞き取れなかった。しかし、状況は見てだいたいわかった。  昨日の時点では、まだ倒壊していなかったホテルだったが、昨夜の余震で隣のビルが倒れてきて、その余波を受けてラーレホテルも嘘みたいに半分の5階部分でポキリと折れていた。しかも1階がべシャリと潰れ、2階も半分ぐらいの高さになっている。  その潰れた方の救助は並行して行われてたが、倒れた上の階の宿泊客のうち、3人がまだ横倒しになったビルの中で動けずにいるということだった。  簡単なホテルの図面と、今やっている作業内容を見る。トルコ語はよくわからなかったが、3人が7階部分にいるのはわかっており、倒れたときに上になった北側の部分から救助隊が入るところだった。が、隣で崩れた1階部分のキッチンから出火しており、できるだけ上層階側に移動できないかということらしかった。  正寅は一旦周囲の捜索を止めてもらった。 「聞こえますかぁ?」  正寅が叫ぶと、少ししてカンカンカンという金属音がした。聞こえたらしい。 「はいなら1回、いいえなら2回鳴らしてください。わかりましたか?」  カン  正寅はそこで図面を見ながら指示を出した。  さすがにホテルはレンガではなかったが、他の建物にはレンガも多く使われていた。そのため、倒れたところにはレンガが山のようにあり、ホテルにもめり込んでいた。  太陽が登ると急激に気温が上がっていき、正寅もヨーロッパからやってきた救助隊もへばりながら頑張っていたが、さすがに現地の人々はどういう体の構造をしているのか、休憩を挟みつつも平然と作業を続けていた。  中も暑いよなぁと思いながら、正寅は都度、中に声をかけた。  割れたホテルの窓の隙間から人の動きが見えたときは、そこに駆け寄って声をかけた。  すると中からも意外と元気な声が返ってきて、正寅もほっとした。 「もうちょっとです。あ、止まって」  正寅も作業員たちも動きを止めた。わずか2秒ほどだったが、ズズっと音がして、震度3ほどの余震があった。 「今、上から救助隊入ってます。今の余震で怪我をした方はいますか?」  正寅はカンカンという音を聞いた。良し。  作業員にGoを出し、正寅は邪魔にならないようにしながら、中の人たちに救助隊の動きを伝えた。最初に1人が助け出され、それから続いて2人も土まみれになりながら出てきた。 「ティガー、終わったら市場に行って。屋根が倒れて救助要請」  状況報告をするとミシェルが指示した。 「ラジャー」  と答え、正寅は拡声器を近くの人に渡した。  聖人みたいな顔して、人遣い荒いんだよ。  正寅は通りに出て「グラン・パザール、どっち?」と大声で人々に聞いた。 「こっちだよ」  と、裸足の少年が駆け出してきて、正寅は彼と、その友だちみたいな数人について走った。彼らは元気でとても走るのが早く、正寅は途中でバイクの青年に拾われなければたどり着けなかった。
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