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7
自衛隊の応援がやってきたのは、予定よりもっと後になった。谷の構造と霧とでヘリが着地できなかったからだ。それでも風によって少し霧が晴れたところで、ヘリがやってきた。
歩き回って長髪のボスが寝転がっている場所を探しあて、応急手当てをした正寅も、いつ暴れるかわからない嶋田を見張っていた菊池も、それぞれかなり疲弊していた。
だからお互い、ほとんど何も話さなかった。
日本の救助隊の本部へ戻り、2人はすぐに事情聴取を受けた。それぞれバラバラに受け、正寅は洞窟の資料も提供した。そしてきちんとした調査が入らない限りわからないが、おそらく大規模な鉱床は望めないのではという話はした。それがどういう意味なのかは考えないでおいた。政治家のスキャンダルなんていつだって浮かんでは消えていく。
この一連の流れで、死者が出なかったのは幸いだった。
棚岡尊はいろんなものにビビって逃げまくって隣国のホテルにいるところを保護された。杉田ヒロは嶋田につかまったのが運の悪さで、嶋田は棚岡元大臣から、息子が起こしたかもしれないスキャンダルのもみ消しを依頼されていたことがわかっている。手段が荒っぽいのは嶋田自身の問題のようだった。
正寅と菊池を脅した2人組は重傷だったが命はとりとめ、カーンも解放された。
聴取が終わると、正寅も手当てを受け、用意された簡易ベッドでひたすら眠った。
これで日本に帰れると、猫のユキチと遊ぶ夢を見た。
翌日、正寅の目が覚めたのは昼前だった。
簡易ベッドだったので、少し腰は痛かったが、あちこちの傷は手当てされていたし、健康的な証拠に空腹だった。
「あ、起きられました? 痛いところはないですか? 検温だけさせてください」
キビキビとした声で、医学生みたいな若い男性看護士が聞いた。
「あ……はい」
正寅は仕方なく応じた。検温だけと言ったのに、彼は他にもいろいろ調べていった。
「あの、何か食べてもいいですか?」
血も抜かれた後、正寅は彼を見た。
「あ、いいですよ。フードコート行きます?」
「フードコート?」
正寅は目を丸くした。そんなものが、この災害派遣駐屯地に?
「あはは、皮肉って言ってるだけですけど、みんな言ってるんで、つい。レーションの配給場所があるので案内しますよ」
「いや……外に出てもいいですか? それか丸山さん……」
「呼んだか?」
丸山が医療テントに入ってきて言った。
「御崎君さ、あと少しだけ残ってくんない? その後は絶対帰してやるから。あのな、こっちの専門家見つけたから、昨日の石とか見てもらって、あと、土地の調査とか簡単にやってもらうから、通訳してほしいんだよ」
丸山が言って、正寅は「嫌です」と言った。
「そうか……じゃぁ上に許可取るしかないか」
業務命令じゃねぇか。
正寅はベッドから立ち上がって丸山を正面に見た。
「俺、殺されかけたんすけど。危険手当とか出るんですかね。ほら怪我もしたし。専門家は別で用意できるでしょ。ていうか、通訳ならスマホでできるでしょ」
「だからだよ!」
丸山が正寅の肩をガシッと掴んで揺らした。
「スマホの言ってることが、わからないときに専門用語を通訳してくれって話だよ。言っただろ、これは国の威信をかけた事件なんだって。あ、ちょっと言い方おかしいな。国の名誉のかかった事件なんだよ。おまえも公僕なら全面的に協力しろ」
次第にパワハラめいた口調になってきた丸山が言い、正寅は暴れてやろうかと思った。周りはみんな自衛隊員なので我慢したが。
「国がつまんない詐欺にひっかかったって話でしょ。どうせ棚岡議員1人の責任になって首が吹っ飛んで終わりでしょ。あんなところに、大きな鉱床があるわけないじゃないですか。どこの専門家が認めたって話ですよ。俺が資料見てたら笑い飛ばしてましたよ」
言っている途中で、丸山の力がぐいぐいと強くなり、正寅は首を絞め殺されるのかと思った。
「だからだろ?」
丸山は正寅の耳元に口を近づけ、ささやくように言った。
「だからもう少し付き合え、って言ってんだろうが。さっさと処理しないとコトがデカくなるだろ。うまく処理できるように協力しろ、銃も持てないクソガキが」
「は? 使えない武器振り回して喜んでる団体に言われたく……」
周囲の温度がすっと下がるのを感じて、正寅は最後まで言えなかった。
さすがに自分でもそれは言い過ぎだと思った。丸山にニコッと笑われたときに、冷や汗が出た。そうだった、この人が何か言ったら、たぶん自分は一生テシェルに縛られる。それを思い出して正寅は口をつぐんだ。
「いい子だな。状況を理解してくれて助かる。担当を呼ぶから待ってろ」
丸山は正寅を解放し、用は済んだとばかりに背を向け、正寅は彼の背中を睨んだ。
「腹、減ったんですけど」
そう言うと、丸山が振り返って、看護士を見た。
「フードコートに案内してやれ」
承知しました、と笑う看護士を見て、正寅は簡易ベッドに座ってため息をついた。
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