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翌日には日本の救助隊がやってきたが、正寅は解放されなかった。というのも、まだ最初の第一弾だったからだ。本隊が来るまで、と懇願されて調整役を続けた。
そこから2日後に本隊が到着したということで、正寅は飛行場まで迎えに出向くようにと言われた。救助隊に出迎えはいらないだろうと思ったが、どうやらどこかの議員か誰かが同行しているとのことだった。
接待はきついなぁと思っていたが、その必要はなかった。
「あなたが御崎さん? 悪いけど日本人が一時避難しているっていうホテルに案内してくれる?」
現地に馴染むようにスカーフで頭を覆った女性議員は、テキパキと言った。荷物はそれほど多くはなかったが、どうやら支援物資を少し持ってきているらしく、段ボール箱がいくつかあった。
正寅が運ぼうとすると、彼女は制した。
「御崎さん、震災当日からこっちに入ってるんでしょう? 運転だけしてくれたらいいから。ホテルまでの道で、ざっくり現状を教えて。その後は、あなたも休みなさい。顔色悪いし」
緑川は早口でそう言って、正寅を運転席に追いやった。そして現地スタッフに荷物をトランクに運ばせた。
顔色、悪いかなと正寅はミラーで確かめ、土で汚れているのは多いにあるなと頬を両手でこすった。彼女に正寅の仕事の割り振りを決める権限はなかったが、それでも休めと言われたのは嬉しかった。
日本隊として入った合同救助隊は、早速被害の中心部へと移動していき、正寅は緑川と、嶋田という男性秘書を乗せて、中心部から少し離れたホテルへと向かった。
「外務省に入った情報では、15人の日本人がいるって話だけど合ってる?」
正寅が震災初日からの状況を説明した後、緑川が聞いた。
「僕が連絡を受けてる範囲では15名です。個人旅行で訪れていた夫妻と、ツアー客とガイドが合わせて7名、あとは在住者です。既にツアーグループは昨日、別の空港から出る便が手配できたとのことで、今日には出国するはずです。個人旅行の方は男性の方が軽い怪我をしたようですが、もう帰国準備はしてると思います」
「ということは、ホテルに残っているのは8名?」
「そうですね、日本人は2名、3名、2名、1名です。男性5人、女性3名。うち、小学生のお子さんが1名、日本人の配偶者でこちら国籍の方が避難していて、その方を含めて9名です」
「名前もわかる?」
「いや、そこまでは。すみません、聞いてたら調べておいたんですが」
「ううん、私は知ってるから。どこまで把握してるのかと思って聞いてみただけ」
緑川が言って、正寅はミラーで後部座席をチラリと見た。緑川は手元の資料か何かに目を落としていた。
「とりあえず、首都に再避難っていうのは手配がついてるわけね?」
「今日の午後のミニバスを手配してます。避難辞退が3名です」
「3人が残るって言ってる?」
「残るというか、被災地に戻る手配をしてるようです。元々、こちらで会社を作っていた方2名と、配偶者がこちらの方は余震が収まってきたので戻ると」
緑川は一瞬顔を曇らせたが、すぐに頷いた。
「わかった。バスの安全対策は大丈夫?」
「バスは危険区域は避けて遠回りするルート取りはしてます。残られる方の安全確保は確認してません」
「それは仕方ない。もう着く?」
緑川は、建物が増えてきたことに気づいたのか、窓の外を見て聞いた。
「着きますけど、車停めて、数分歩きます。旧市街はかなり入り組んでて」
「わかった。御崎さん、武装してる?」
「まさか。してませんよ」
「災害救助隊は武装が許されてないんだったっけ」
「自衛隊じゃないんで」
「じゃぁ嶋田が警護する。嶋田はガードだから」
「え……あ、そうなんですか。そこで停めます。階段をちょっと上がります」
「オッケー」
緑川は軽く言って、正寅はチラリとミラーで嶋田を見た。武人という感じはしなかったが、人は見かけによらない。秘書だと勝手に正寅が思っただけで、現地の武装外交官なのかもしれなかった。
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