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目が合うと、嬉しそうに小さな手を胸の前で振ってきた。
白い八重歯を口の端から覗かせ、アーモンド型の大きな目が弧を描く。
「おや、また来たね」
少女の無邪気な笑みに苦笑いを返す俺の隣で、シンさんが「こんにちは」と親し気に手を振り返した。
「いつも来てくれるんだよ。特にクリームソーダを作っている時にね。そこの樹に登ったりして見てるんだ」
「そうなんですか」
薄手の赤い長袖シャツに小穴がいくつも空いて、随分と色あせて生地もよれたようなズボンの少女は、人懐こい笑顔を向けてくる。
あぁ、苦手だ。
反応に困るというのもあるが、子供は純粋だ。純粋で残酷。
正直に思いのまま喋る子供の言葉は、俺にとっては無垢な刃でしかない。
いまの俺の顔は引きつっている気がする。
「店が終わったら遊んであげるんだよ」
「へぇ」
だからシンさんも慣れているというわけか。
「さすがに、営業中は入れてあげられないからね。かわいそうだけど」
「そうなんですか?」
ここは子供は入れないお店だっただろうか。
なんだかちょっと意外だな、と思う。
「猫ちゃん、可愛いんだけどね」
シンさんは言いながら、窓の向こうにもう一度手を振る。
少女は――どう見ても少女にしか見えないそれが嬉しそうに飛び跳ねると、耳の下で結んだ二つの髪も楽し気に弾んでいた。
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