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店を出たのは、閉店時間の五時半だった。
「来てくれてありがとうね」
「いえ。ごちそうさまでした。あれ、これは……クローバーですね。すごい、四つ葉だ」
店の壁沿いに並んだプランターに、四つ葉のクローバーがひとつ置かれていた。
「おや、まただね。これね、時々誰かが置いていくんだよ」
「誰かが、ですか」
クローバーを拾いあげたシンさんは、葉を裏、表と返して目を細めて頷く。
「嬉しいよね。四つ葉は幸運をもたらすって言うからね」
シンさんは言うと「またね」と、ドアに掛けた店名の木札を裏返した。
ひとり静かな公園を歩いた。
昼間の暑気を残した湿っぽい風が肌に纏わりつく。
カナカナカナ……
空は茜雲が覆い、ヒグラシが哀歌を奏でていた。
赤みがかった夕日が樹々に真っ直ぐに差し込む風景は神々しく、芝生に時計塔の長い影を伸ばす。
この綾瀬の森公園は、別名「創造の森」とも呼ばれている。
敷地内のあちこちに、有名無名関係ないアーティストたちの作品が立っているのだ。
公園入口には大空に向かって手を伸ばす天使像。
池の傍には、中古品だろうか、溝のすり減ったタイヤが山のように積み上げられた一風変わった作品や、そこらで掻き集めたようにしか見えない石で縁取った池もある。
作品の全てが大学生のサークルや、個人のアーティストが作ったものらしい。
ちなみに屋外に飾れないものも勿論あって――それは絵画だったり、版画だったり。
それらは森の入り口から三又に分かれた左の道を、五分ほど歩いたところにある美術館に展示されている。
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