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時計塔広場の脇を通り抜け、鉄製の巨大な知恵の輪が中央に鎮座する広場を横切り、背の低い木々がトンネルのように生い茂る小道を抜ける。
樹高二十メートルほどの桂の樹の下で、ベンチに座った女性に出会った。
淡いベージュのワンピースに、白いカーディガンを羽織った女性は、肩までのさらりとした黒髪を細い指で耳に掛ける仕草をし、ふと目が合う。
心臓が一拍分スキップした。一気に顔に熱が帯びる。
茹でダコの石像のように固まる俺を気にする様子もなく、女性はすぐに視線を戻した。
その先にあるのはガラス工房だ。
ガラスはこの町の名産品でもあるので、ガラス工房は町中に点在している。
ここはそのうちのひとつで、以前は盛んに体験会などもして賑わっていたのだと、確か一週間ほど前に何気なくシンさんが教えてくれた。
耳の奥に心臓の鼓動が響くのを抑えきれないまま、公園から逃げ出した。
駅の構内にある証明写真機の全身鏡に映った俺の顔は、耳まですっかり赤くのぼせあがっていた。
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