第一話 空色のクリームソーダ

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「おう、敦士。帰ってたのか」   風呂から上がった父さんが、居間にいた俺を横目に冷蔵庫から缶ビールを取り出した。 「お弁当買ってきたよ」  目を合わせないまま、ビニール袋から弁当をふたつ取り出す。 父さんは「ん」と短く返事をするだけだ。 五十歳の時に脳梗塞で倒れ、右半身に麻痺が残る父さんは、器用に左手に持った箸でから揚げを掴んで頬張る。 「開けるよ」 「あぁ」   父さんの手元にあった缶ビールを取りプルタブを開けて渡すと、口をもごつかせながら軽い会釈を返してきた。 いつも通り黙々と、テレビのバラエティの音を垂れ流す食事風景は我が家の日常だ。 ふたり暮らしの、変わらない毎日。 「ごちそうさま」 「敦士」 一足早く食べ終わり、弁当箱に蓋をして立ち上がろうとする俺を呼び止める。 ビールをあおり、言葉を選ぶように一呼吸おいた。 「ほら。最近どうだ。バイトは」 「どうって……」 絞り出した言葉は、結局予想を上回ってくることはなかった。 むしろ、予想通り。 父さんはいつもこうだ。 息子である俺に気を使いすぎて、きっと思っていることの半分も言葉にできていない。 昔から口下手で、不器用すぎる。 母さんに浮気をされた挙句、幼い俺を連れて家を出た母さんに文句も言わない。 「変わらないよ。でもちゃんと就職できるように考えるから。迷惑かけてごめ――」 「迷惑ってなんだ」   低い声で吐き捨てるように言うと、畳に新聞を広げて背を向けてしまった。 「……ごめん」   父さんは鼻を鳴らして一気にビールを飲み干し、ビニール袋に空の弁当箱を突っ込む。
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