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「よし」
ロッカーで着替えを済ませ更衣室を出ると、廊下の先に同時期に入った二つ年上の桜木さんがいた。
黒のシャツから俺の倍はある逞しい焼けた腕を上げて、爽やかに白い歯を見せている。
「おっす、鷹取。今日、荷物多いみたいだぞ。気合い入れてこーぜ。じゃ、後でな」
「はい。また」
運送会社の仕分けのバイトを始めて、ちょうど三週間。
お世辞にも愛想が良いとは言えない俺にも、こうして声を掛けてくれる仲間がいるのは、結構居心地が良い。
繁忙期の短期バイトという契約だが、俺が続けたいと思えば期間延長も検討してくれると言う上司もいる分、このバイトは自ら辞めるには惜しい。
「鷹取。手空いたら、こっちの冷凍手伝って」
「は、はい」
冷凍庫の扉を開くと溢れ出る冷気を汗だくの全身に浴びるのは爽快だ。
この楽しみがあると思えば、冷凍を担当するのも案外悪くない。
冷気の靄の向こうに荷物の壁が現れ、気合いを入れ直すように軍手をはめ直した。
「はーい、みんなお疲れさん。今日もありがとね。さっさと帰ってゆっくり休んで」
最後のトラックが駐車場を出るのを見送ったリーダーの上田さんが、俺たちバイトに向き直り「はい、解散解散」と軍手の手のひらを叩き合わせた。
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