最終話 喫茶うたたねの魔法

15/15
前へ
/187ページ
次へ
「ところで、そろそろ開店かなと思って来たんだけど」 「あら、もうそんな時間か」 「すみません、すぐに準備します」   腕時計は九時十分。 「あたしはこの子を病院で診てもらおうかな。とりあえず首輪とリード買ってくるわ。ごめんね、いきなりお手伝いさん不在で。じゃ、またあとで」 「はい、宜しくお願いします」   翼さんの揺れるポニーテールを見送り、俺はポチの前にしゃがむ。 「今日からよろしくな」 【喫茶 うたたね】 ドアプレートを表に返し、 「どうぞ」   高塚さんが店に入る。  シャンシャンシャン   今日もこの森には命が溢れている。   こうして鳴いている蝉たちもまた、懸命に命を輝かせて。 「シンさん、そろそろ起きてくるかな」   ふと見上げた二階のシンさんの部屋の窓が開いている。 夏の日差しを浴びた白いカーテンが、窓の外へとふわりふわりと大きくはためいていた。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加