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「やっぱ噂、マジだったんじゃね。時々、何も無いところに喋ったり笑ったりしてたってやつ。つーか、こいつ自身が幽霊みたいだけど。いっつも下向いてぶつぶつ喋るし」
「やっぱ幽霊見えてんの? 今いる感じ? やべぇ、怖すぎ
「おい、やめろって」
桜木さんが二人を制しているが、もうそんなのどうでもいい。
きっと桜木さんだって同じように思っているはずだ。
「俺ら呪われんの?」
右側の男が声を張り上げ、事務所前にいた従業員が何事かとこっちを見ていた。
呪われる。
俺といたら呪われる。
そんな言葉、今まで何度言われただろう。
今更、傷つくような言葉じゃないんだ。
心の中で自分に言い聞かせて、こみ上げてくる感情を押し込むように飲み込む。
「失礼、します」
何とかその言葉だけを絞り出し、その場から逃げた。
桜木さんが俺を引き留めようと咄嗟に掴んだ腕を、全力で振り払って走った。
女の長い前髪の隙間から見えた乾いた唇が、また何か言いかけたように見えたけれど、全てを無視した。
終わった。もうここにもいられない。
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