第一話 空色のクリームソーダ

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第一話 空色のクリームソーダ

 息が苦しい。 乾ききった荒れた喉に唾液がざらりと引っかかって、腹を抱えてむせ返った。  無理だ、もう走れない。   空気の通り道が狭くなるような感覚。 吸おうが吐こうが、酸素も二酸化炭素も出入りしている実感が無い。   運動不足の両足が悲鳴を上げるように、太ももに鋭い痛みが走る。 「ちょっと!」 「す、すみません」   肩がぶつかった女性に足を止める事無く、そう口にするだけで精いっぱいだ。   とにかく人目につかない場所へ。 その一心で、商店街の人込みを駆け抜け、できるだけ人通りの少なそうな路地を走り、タイミング良く青信号になった横断歩道を渡る。  この先は確か――   畑沿いの見通しの良い通りに出て、一度振り返った。   真夏の炎天下。 ぎらつく日差しに汗ひとつ流さない女が、黒い長髪を顔の前で揺らしながら、悠々たる足取りで二百メートル程まで迫っていた。   紺のブレザーに赤いネクタイ。 膝丈のボックスプリーツから伸びるひょろりと細い足。 片手を伸ばすその姿は異様で不気味で、髪の隙間から覗く目は全く生気を宿していない黒塗りだ。   息急き切って走る俺に対し、表情一つ変えないまま滑り迫る女の姿に、全身が粟立つのを感じた。 「うわっ」   公園の入り口を覆う大木の根に躓いて、勢いよく地面に激突した。 手のひらや肘は、地面の上を滑った跡に砂利や小石がめり込んでいた。  やばい。追いつかれる。
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