第一話 空色のクリームソーダ

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バイト先に辞めることを伝えるのは簡単なものだった。 希望すれば期間延長もと言ってくれていた上田さんは「本当に辞めるのか?」と聞いてきた。 そもそもが短期契約というのもあるし、アルバイト自体が出入りの激しい職場というのもあって、俺が迷いなく伝えるとそれ以上止めてくることもなかった。 「もしまた戻りたくなったらいつでも来いよ。上には俺から話してやるから」   ロッカーに置いていた予備の着替えをリュックに詰め込む俺の背中を、上田さんが軽く叩く。 「ありがとうございます」 「桜木も寂しがるだろうなぁ。あいつと仲良かったもんな。まぁ、俺から話しといてやるから、心配すんな」 「すみません。よろしくお願いします」 桜木さんはどう思っているかわからないが、顔を合わせれば他愛のない話をしたり、仕事中もよく助けてくれた人だ。 先週「近いうちに一緒に飯でも食おうぜ」と言ってくれたが、結局その「近いうち」は永遠に来ることは無くなってしまった。 「お前、よく頑張ってたよ。ありがとう。じゃ、元気でな」   上田さんは、俺が門を出るまで事務所の前から見送ってくれていた。 敷地を出る俺に、眩しそうに目を細めながら手を振ってくれた。
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