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「いらっしゃい」
カランコロン カラン
軽やかなドアベルの音が店内に響き渡り、エアコンの冷気が、熱気に包まれた俺の身体をさらりと冷やす。
入口から奥の壁に向かってL字に伸びる重厚なカウンターのなかで、珈琲豆のキャニスターを手にしているのはこの店のマスターだ。
黒いベストにワインレッドの蝶ネクタイ姿のシンさんが、薄く微笑んで出迎えてくれた。
落ち着いてからの方が身体中から汗が噴き出した。
店の前で念入りに拭いたはずだが、シャツの脇に色濃いシミを作り始めている。
「翼ちゃんも、ああ見えて色々と思うところがあるのかもね。難しいね」
窓辺に並んだ四つのテーブル席のうちの、入り口側の真紅のソファにもたれながら新聞を読んでいた小野明弘さんが苦笑する。
シンさんが「そうだね」と相槌を打ちながら、カウンターの下の棚を、何かを探すようにしゃがみこんだ。
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