第一話 空色のクリームソーダ

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軽くほぐしてフォークに巻き付ける。 口いっぱいに頬張ったナポリタンは、太麺のもっちりとした触感だ。 ケチャップが絡む面積が大きい為、味もしっかりと。 最後に絡めたバターの風味がふわりと口に広がって、思わず頬の筋肉が緩む。   ほっぺたが落ちそうとは、きっとこの事だ。 もう何度となく食べたこの店のナポリタンは、いつ食べても感動せずにはいられない。 「アイス珈琲お願いします。この前淹れてくださった珈琲を」 「あぁ、ルンゴかな。あれ気に入ってくれたんだね」 アイス珈琲が美味しいこの季節。 いつもと少し違うものを淹れてくれると言って、シンさんが淹れてくれたのがルンゴという、通常のエスプレッソの二倍の水を使ってじっくり時間をかけて抽出する珈琲だ。   使う水の量は多いが、時間をかける分、味が力強くなるらしい。 それをアイス珈琲にしたものだが、元が濃い為、氷が解けても濃厚な味を保ち続けることができる。   薄まる心配も無いので、のんびりと本を読みながらでも楽しめるところが気に入ったのだ。 「そういえば敦士君、絵、見たよ。凄いなぁ、立派なもんだ」   小野さんが指さすのは、入り口の扉の上に掛けられた銀縁の額だ。
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