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デメリットが強調されがちなオメガだが、10万人に1人という希少性はもちろん、それ以上にオメガの人間が持つ独特の美しさは、他に代えようがない。
レース細工に例えられる繊細な美貌や華奢な体躯は、人間の持つ本能的な庇護欲を掻き立てる。だから、オメガに出会った者は性別関係なしにその美しさに魅了される。
玲も、その例外ではなかった。
玲の両親はともにベータだ。だが双方の血筋には、過去にオメガが存在していた珍しいカップルだ。だから、ふたりの間に生まれる子には、オメガの可能性があった。
身体が丈夫ではなく、長く子供に恵まれなかった両親は、すべてを承知で高齢で授かった我が子の誕生を強く望んだ。
そうして生まれた玲は、幼いころから『かわいい』というよりも『美しい』と言われていた。周囲とは明らかに異質なその容姿は、近所でも知らぬ者はいない程の評判だった。
古い神社のふもとにある小さな集落に、玲の家はある。幸いなことに、子どもの少ない田舎の小さなコミュニティの中で暮らしていたので、周囲の人々は皆で玲を我が子のように見守ってくれた。玲もその環境下で、ゆっくりと育った。
しかし、聡明な玲の両親は日に日に美しくなる息子の様子を見て浮かれるようなことにはならなかった。むしろこれから起き得ることに対しての覚悟を決めた。
我が子はオメガだ。しかも男性オメガとして生まれた。
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