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通院しているバース科の病院で読んだ、オメガ教育用に用意されている冊子の内容にびっくりし過ぎて、そっち方面の興味を自分自身で封印してしまったのかもしれない。だから玲はとても奥手だ。
何しろ小さなコミュニティの中で暮らしていたから、玲は今までテレビの中でしかアルファを見たことが無かった。玲が一番よく知っているアルファは、野球選手のスーパースターだ。
一方で、両親からくどいほど聞かされた『あなたはオメガなのだから、アルファには気を付けなさい』という言葉は、玲の中に刷り込まれている。だから怖いもの見たさ半分もあり、アルファへの好奇心が玲の中に芽生えていた。
中学までは、当たり前だが自分の周りにいる皆ベータだった。生徒はオメガに関して保健体育のテストで出る項目以上の関心を持っていなかった。きっとバース絡みのことは、彼らにとっておとぎ話に近い話なのだろう。
高校生になっても、所詮一年生のうちはまだ子どもだ。可愛いガールフレンドを作ることが最優先で、多少小奇麗な程度の同級生男子などは目に入らない。
クラスの中でも玲の存在は、『あまり自分から話さない陰キャ』という位置に落ち着き、誰も気に掛けなかった。それは玲にとってはむしろ望むところで、おかげでノートの端に好きなイラストを描くことに精を出しながら、穏やかに過ごせていた。
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