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言うまでもないが、玲への女子からの当たりはキツく、無視されるだけでなく、ちやほやされて天狗になっていると悪し様に陰口を言われたりした。
淋しい。
男の友だちは遠巻きに自分を見ているだけだ。席が近くよく話をしていた女子たちも、自分がハブられるのを恐れて玲を避けてしまう。
放課後に友だちと時間を忘れて、お互いの趣味の話をするのが好きだった。下校時に玲を取り囲む先輩たちは、恋愛やスポーツの話題ばかりだ。玲はマンガやゲームのほうが好きなのだ。
ましてや、性に関わる話は興味よりも恐怖が優る。誰と誰がどうなったなんて話は全然面白くなく、取り敢えず遣り過ごすために、貼りついた笑顔で遣り過ごしている。
こんな状況では、自分がオメガだと知れたら、どんなことになるだろうかと思うだけで怖くなる。玲は次第に元気がなくなっていった。教室の中で、息苦しさを感じ、窓の外をぼおっと眺めている時間が増えた。
そんな玲の日々が変わるきっかけをくれたのは、美術教師の安田だった。
玲は選択科目では美術を選んでいた。教室にやってきたゴマ塩頭の美術教師は、生徒の間では少し変わり者との評判だったが、玲にとっては面白い先生だ。
それまでは、絵をかいたり粘土で彫像を作ったりする実技授業は楽しいが、美術の教科書を読む時間は退屈だと思っていた。
だが、安田の授業は少し違っていて、教科書には書かれていない画家の人生や作品の背景を丁寧に教えてくれる。
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