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15 日曜日
思い出の品は、少し埃臭くて、苦くて甘い香りがした。
朝になった。
俊吾は目覚めの良い方だ。寝つきの具合に拘らず、朝はきちんと目が覚める。
勤務医生活ももう長い。体内時計は狂いっ放しだが、早起きはデフォルトになっている。俊吾は朝の光を浴びるのが好きなのだ。二度寝になっても良いから一度起きたい。
今日は珍しく完全休暇だ。病院へは、急な呼び出しが無い限り、明日の朝に出勤したらいい。身の回りの片づけを済ませたら、別段用事も無い。こういう日は珍しいから気分はいいが、半分は手持ち無沙汰で落ち着きが悪い。
俊吾の部屋は、病院からほど近いマンションの中層階で、周りに遮るものが無いからよく陽が入る。これは田舎の特典だ。
元から荷物は多くないから、引っ越したばかりで部屋は小ざっぱりしている……と思いたいが、それは贔屓目が過ぎると俊吾は自分でも分かっている。実際には、いいかげん積まれた段ボールを片付けたほうが良いと思われる部屋の景色だ。
俊吾は意を決して、午前中はその時間に当てることに決め、コーヒーメーカーをセットした。
昔からコーヒーは豆で買い、挽いてドリップすることにしている。大学の先輩がそうしているのを見て、格好いいなと思ったことがきっかけだ。以降ずっと豆を挽いてコーヒーを入れているのだ。
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