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忙しい折は電動ミルを使うが、今日みたいな朝は自分の手でゴリゴリ回して挽くことも多い。豆を挽くことは意外と体力を使うので、そこに神経が集中する。何気に無心になれるから、好きな作業だ。
マグカップに一杯をいつもの手順で入れただけだが、いつもより香りが立っていて、今朝はなんとなく出来が良く感じる。何か良いことがある予兆だろうか。
窓を開けると、入ってくる風も心地よく、俊吾の気分は上がった。これなら片付けも調子に乗って、終わらせられそうだ。
激しく重かった腰を上げて作業に入れば、部屋がどんどん片付いていく。ダンボールが積まれた状態よりも、こざっぱりとした空間が増える快適さは、やはり何物にも代えがたい。
スマホから軽い音楽を流し、段ボールに書いたメモ書きを見ながら、俊吾は仕分けを続けた。荷物の整理というものは、そこそこの肉体労働だから汗が滲んでくるが、元から身体を動かすのは好きな方だ。これはこれで気持ちがいいなと感じた。
幸いなことに、マンションには造り付けの収納棚がいくつかあり、そこに粗方のものは仕舞い込めた。あとは本を片付けたらキリがつく。
何年も続けた男の一人暮らしだから、そこまで荷物は多くない。その上、故郷へ戻ると決めたときに、長年の都会暮らしで溜め込んでいたものは、全部捨ててきた。
それは、俊吾なりの覚悟でもあった。
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