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シャープペンの細い字は、何度も迷いながら、数式を組み立てているのが見て取れた。消しゴムの跡も残っている。その上に、赤い字が乗っかって、何やらヒントを出しながら、何とかして細い字をゴールに辿り着かせようとしている。
玲は数学が少し苦手だが、入試にはどうしても必要なので、塾代わりにと俊吾が問題の解き方を教えていた。
彼が受験したい大学は地元の国立で、教育学部の美術専攻は実技試験を伴う。レッスンのために画塾に通うことで時間的にも金銭的にも手いっぱいなのは、俊吾も察していたから、出来る限りの協力がしたくて自分から申し出たのだ。
玲は最初は少し遠慮をしていたが、最終的には快く受け入れてくれた。
その直前に、俊吾は玲がオメガだと知った。
玲が自分から教えてくれたのだ。その代わりにではないが、玲とふたりだけになった学校帰りに、俊吾も自分はアルファだと認めた。
自分たちの第二性を互いに知った時、玲は『今までどおりでいよう』と俊吾に告げた。提案の体を取ってはいたが、玲が有無を言わす気は無いのは、鈍い俊吾でも分かった。そうなると、俊吾は『諾』と言うしかない。
正直言えば、その場で俊吾は、そこまで深く考えはしなかった。玲との友情は不思議な甘酸っぱさがあり、部活やクラスの友だちとのそれとは、何となく違うが、男同士なのだから後にも先にも自分たちは友だちに違いないと、単純に思っていた。
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