237人が本棚に入れています
本棚に追加
女子よりも華奢な身体に、精密に整った小さな顔がちょこんと乗っている。指の先まで細くて白い。
玲のことは、確かにキレイなヤツだとは思っていたし、時々その表情の変化にドキンとすることはあったが、そこと惚れた腫れたの感情は結び付いていなかった。今思えば、何とも子供の思考だ。
一週間休んだ後に登校した玲は、玲であって玲でないような気持ちになるくらいに美しく、俊吾は圧倒的に惹きつけられた。
可愛いと言われる容姿の女子も俊吾の周りには何人もいるが、そんな彼女たちが有象無象に思えるくらいに、玲の存在は違っていた。
覚えている。なにしろ、あの時の玲からはいい匂いが漂ってきた。
果物のように甘くて、何かとても懐かしいような……。そんな細かなことまで覚えているくらい、俊吾には印象的な出来事だった。
だからあの時、玲にクギを刺して貰ったのは、自分たちにとって大切なことだったのかもしれない。
それが無かったら、考え無しに突き進んでいたかもしれない。高校生のあの頃の俊吾は、家庭での何とも言い難い立場もあって、玲を前にして感情が溢れたら、自分を抑え込める自信など無かった。
自分はアルファなのだ。目の前にオメガの据え膳があったなら、獣のように激しく貪り、食い散らかしてしまう。そんなことに溺れたら、きっと今の自分たちは無かっただろう。
最初のコメントを投稿しよう!