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顔がよく似ていて、お父さんは娘さんが可愛くて仕方がない様子だ。眺める俊吾の方もほほえましい気分になる。純粋に「いいな」と思った。
別に羨ましいわけではない。俊吾にも深く付き合った相手はいたし、収入も人並には得ることが出来る仕事をしている。結婚をしようと思えば、とっくの昔にしていた。
だが、俊吾は一歩を踏み出すことは無かった。決断が必要になった時にはいつも、どこかから誰かが、俊吾に「それでいいのか?」と問うてくる。問われると俊吾は常にそこに立ち止まってしまった。
多分、自分の中に一つの別の答えがあったからだ。その答えは、いつも苦くて甘い香りがして、俊吾を留まらせた。
町の中心へ向かって歩くと、途中にスーパーがあった。駐車場がいっぱいになっているのを見ると、ここが人気店なのが分かる。横目で見ながら大きな道に出ると、都会でも見知っていたチェーン店の大きな看板が並んでいる。
子どもの頃、両親に連れられてよく行った県内唯一のデパートは、いつの間にか閉店していて、そこには家電量販店の大きな看板が立っていた。
その代わりに、車で15分も走った先に、巨大なショッピングモールが出来ている。同僚の医者も今週末は家族サービスでモールに出かけると言っていた。
郊外の住宅街が整備されて、みんな週末はそこで過ごすようだ。田舎だから車で移動することが前提の生活だが、自分がいた頃よりも、暮らしやすさが増したように感じる。
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