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玲は無駄話を止めて演奏に集中した。曲を聴きながら、フンフンと何かを口ずさんでいる。そんな様子は、高校時代の玲と変わっていない。
玲は絵も上手かったが、音楽が好きで歌も得意だった。向かい合って勉強をしていた時も、玲は好きなボーカリストの話を俊吾によく聴かせてくれた。
玲の変わらない面を見つけられて、俊吾は少し嬉しかった。
「……盛り上がりがすごいよね」
曲が終わり、観客からの大きな拍手が響くのを眺めながら、玲が呟いた。
生徒の一人が前に出て、自分たちと学校の紹介を始めた。どうやら演奏は中休憩に入ったようだ。
玲はやっと俊吾の方を向いた。身長差があるから、玲は見上げるようにして俊吾と目を合わせる。
こんな態勢になると、昔から俊吾は自分でも訳の分からない感情が溢れ出そうになる。自分をどう誤魔化そうかと焦っていると、玲が話しかけてきた。
「ね、最初の質問に帰っていい?」
「ん?」
「高島君、こんなとこで何してんの?」
「……ああ」
俊吾に語り掛けた玲の目は、微笑んでいる。真剣さの中に、いたずらっぽい表情が混じっていて、それがなんとも玲らしい。俊吾の中に懐かしい高校時代がどんどん蘇ってくる。
あの頃の俊吾にとっては、家にいる時間よりも学校にいるときの方が、のびのびと自分らしくいられた。その中でも、玲との放課後の時間は俊吾にとって特別なものだった。
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