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案の定、気の利いた回答は思いつかない。
「取り敢えず、メシ食いに……」
「……そっか。僕もなんだ」
すっと出てきた返事を受けて、俊吾は違和感を感じた。玲は結婚したと聞いている。既婚者なら、休日は相手と一緒に過ごすものだと思っていた。
俊吾の怪訝は表情は、すぐに玲に察知された。
「あっちは遠くへ出張中。僕は寂しく独りで留守番中」
ニコニコと笑いながら、なんの衒いも無く、玲はごく自然にそう言った。
「よく行く店があるんだ。よかったら一緒にどう?」
「え?」
「少し歩くけど、いい? 南インド料理の店なんだけど、いいランチを出すんだ。高島君はそういうのは好きじゃない?」
「いや。興味がある」
「じゃあ行こう。美味しいよ~」
玲は最後は歌うように言うと、俊吾の前をさっさと歩き出した。俊吾に有無を言わせないところは全く変わっていなくて、何故か俊吾はホッとした。
玲に連れられて行った店は、古い商店街の中にあった。
この辺りは、チカチカした看板やピンク色のネオンが目立つ路地もあるので、あまり近づかないようにと母親から常々言われていたが、実は俊吾は高校生時代にはたまに来ていた。
商店街を抜けた先に剣道の用具を扱う店があり、そこに世話になるような用事が何度かあったからだ。そうでもなければ、来ることはなかっただろう。うら寂れた雰囲気が、少し苦手だった。
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