238人が本棚に入れています
本棚に追加
玲の目指した店は、件の武道具店を通り抜けた先の、アーケードの終わり際にあった。俊吾は知らなかったが、この辺りまで来ると、さっきまでとは全く雰囲気が変わる。
古いシャッター店を改装したカラフルな外装の店が、俊吾の目にいくつも入ってくる。サブカルチャーの雑貨を扱うような店があるかと思えば、店の前のベンチに座ってコーヒーを飲むカップルがいたり、自然食品店で店頭に並んだ野菜を選んでいる家族がいて、何やら面白げな様子だ。
俊吾の表情の変化を見て、玲は微かに得意げな表情になった。
「店を持ちたがっている若い人に、商店街のオーナーたちが閉めていた古い店舗を貸し出す機会が増えてきたんだって。だからこの辺りは少しずつだけどシャッターが上がりだして、いろんな店がオープンしてるんだ」
「それは良いことだな」
「これから行くところもそんな店で、うちの卒業生が働いてるんだ。とても感じのいいところだよ」
玲の口ぶりから、俊吾はピンときた。
「ひょっとして、お前の生徒か?」
「よく分かったね。美術室の卒業生、言わば僕と高島君の後輩だね」
玲はそう言うと、黄色く塗られた木のドアを開けた。カラカラと呼び鈴が鳴る。
続いて俊吾は中に入った。瞬間、いきなりスパイスの香りが鼻に飛び込んで来て、ガツンとやられた。だが、空腹を刺激するとても好きな香りだ。
最初のコメントを投稿しよう!