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「ああ、君か…………。何だっけ?」
安田のとぼけた様子に、大きな同級生はコントの一場面のように大袈裟にズッコケてみせた。すぐ傍にいた玲は、それを見てクスリと笑った。
玲が顔を上げると、彼ともう一度目が合った。つい笑ってしまって申し訳ないと思い、彼に向ってひょこりと頭を下げると、今度は彼の方が玲を見てクスリと笑った。
気を悪くしていないのは、目を見たら判る。彼の大らかで温かい人柄が伝わってきた。
大きな同級生は安田の方に向き直ると、わざとらしい口調で文句を言い始めた。
「先生、ひでえよ。約束忘れてるんだもん。先生が本貸してくれるって言うから、俺探して来たのに」
「ははは、ごめんごめん。直ぐに渡すよ。えっと、どこだったっけかな。井上君、知ってる?」
急に話を振られて、玲の方が驚いた。あたふたしてしまう。
「あの……、何のことか全然……」
「授業でやったとこだよ。ゴッホの兄弟の小説が面白いって」
困りかけたのを見て、話をさっと取ってくれた彼が頼もしいと玲は感じた。安田はやっとピンと来たようだ。
「ああああ。そうだった」
安田が書架の中から1冊の本を取り出して、同級生の彼に渡すとやっと事態は収まった。
タイミングよく、下校を促すチャイムが鳴った。あまりのタイミングの良さに3人で顔を見合わせ、笑みが出た。そんな中でも、玲はやはり彼の笑顔から目が離せない。
それが『大きな同級生』高島俊吾と玲との出会いだった。
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