3 アグリーダック

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 俊吾には2歳上の兄と5つ下の妹がいる。名前は武久と久留美。兄弟仲は至って良好だ。兄は温和な常識人で、妹は年の離れた末っ子らしい愛嬌があり、家族のアイドルだ。  親が歯科医と元教師ということもあり、高島家はとても教育熱心な家庭だ。習い事にも積極的で、金銭面で過度な我慢をすること無く3兄妹は育った。際立って裕福では無いが、総じて余裕のある生活をしている、田舎の典型的なアッパーミドルの家庭だろう。  実にアッパーミドルとは言い得て妙で、高島家は『平凡よりちょっと上』という言葉で表現するのが一番しっくりくる。何事も穏便に済ませたい父親の性格がそういうところにも如実に表れている。  ただ1つだけ、そんな高島家にとって平凡ではない事柄があった。アルファ性を持つ俊吾の存在だ。  俊吾は両親の実子ではない。そして、皆がベータである高島家のなかで、俊吾だけがただ一人アルファだった。  俊吾は父親の妹が産んだ子だ。大学入学の前にそのことを知らされたとき、俊吾は今までの全てのことが腑に落ちた。アルファという判定は当の昔に受けていて、自分でも自覚があったからだ。 「言われてみれば、そうかもな」  腑には落ちたので、衝撃を受けることも無かった。俊吾の感想は実際にはその程度だった。なんとなく心の奥底で、予感めいたものがあったのかもしれない。
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