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平平凡凡ではあるがきっと程々に満足の行く家庭生活を送り、普通に幸せな生涯を過ごしただろう。
だが、俊吾それを選ばなかった。自分には違う運命があるという予感がしたからだ。
あの日、夜勤明けの牛丼屋で時間つぶしに開いたスマホに流れて来た、一つのネットニュースが俊吾の目に留まった。その小さな記事を見つけた瞬間、俊吾の身体に電流のようなものが走り、すべてが変わった。
医師であると同時に、自分はアルファだということを改めて自覚した。そして、アルファとして生きたいと強く思った。
胸の奥に閉じ込めた甘酸っぱい思い出と、苦い記憶。故郷の匂い。
それが全て、自分の中に流れ込んでくる感覚に、俊吾は身震いを覚え、眩暈がした。身体の奥に何かが滾り、アルファとして求めて止まない相手の存在を自覚せざるを得ない。
運命の相手……オメガの甘い香りの記憶が、蘇った朝だった。
バス停から少し歩くと、校門が見えた。高校生の時は自転車で通っていた俊吾からすると、バスで学校へ向かうのは新鮮な感覚だ。平日の昼間に、外から母校を見上げる機会など無かった。
田舎の学校なので、通常ならカステラを切るように成績順で行く学校が決まる。中学時代を通して文武両道を地で行った俊吾は、担任教師から当たり前のように地域トップ校を勧められたが、それを断って、自宅から一番近い中堅高校を受験した。
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