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「……教えてくれて感謝してる」
「やっぱり俊吾は大人だな」
「そんなことない。それなりにはショックはあるよ」
「ははっ。またそうだよな。だが、きちんと礼を言えるのが、実に俊吾らしい。取り乱さず、立派だと思うぞ」
「……そうかな」
「うん、母さんもみんな分かっている。何があっても、俺は俊吾は俺たちの子だと思ってるから」
「……ありがとう」
俊吾は目の前にいる父にはそう言ったが、一方で、母に対しては複雑な思いが無いと言えば嘘になる。
実際に俊吾を育てたのは母だ。2歳違いの兄がいる状況での子育ての苦悩は、俊吾にも想像がついた。
鷹揚な父と違って、生真面目な性格の母にとって俊吾の存在は、感情の処理が難しかったのではないかと思う。
教職時代にいろいろな子供を見てきた母は、ダイナミクスの判断が未だ付いていない時期から、周りの子よりも体格がよく、キラリと光る賢さを見せる俊吾に対し、もしかしたらという予感を持っていたらしい。
しばらくすると、更に実子である兄との違いが出てきてしまった。成長の度合いが確実に早いのだ。これはダイナミクスの相違による不幸だ。案の定、俊吾は長じてアルファと判明した。
俊吾の実母はオメガだったから、十分ありうることだ。きっと実母の相手はアルファだったのだろう。俊吾自身がいかにもアルファらしい雰囲気を醸し出すようになってきた。
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