3 アグリーダック

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 もちろん兄は兄で、十分に優秀な人間だ。但し、それはあくまでもベータとしてであって、アルファの俊吾と比べたら明らかに見劣りがする。  一方で、母は教職に就いていたことを誇りに思うだった。努力と勤勉に価値を置き、こうあるべきという姿を何かと重視する。  自分たち兄弟も、行儀を厳しくしつけられたが、母自身が何より自分に対して厳しく当たる人間だった。  自分は常にフェアであらねばという強迫概念に近いものを持っていたのだろう。十分に優秀な努力の人である実子と、何でも出来てしまう甥っ子が、我が子として並んで目の前にいる状況が、母を混乱させた。  自らが産んだ子との差異は、アルファとベータだから仕方がないと、単純に諦められるものではなかったのかもしれない。  今なら、俊吾は理解できる。きっと、理性的に事実を受け入る過程が、真面目過ぎる母の心を、多少ゆがませたのだろう。  彼女は、何かと規格外な俊吾を常識の枠にはめたがり、兄に遠慮するように促したりするようになり、俊吾を困惑させることが増えてきた。  一方で、温和な性格の兄は、俊吾の出来の良さを自慢に思うことはあっても、僻んだり貶めたりすることが無かった。俊吾が剣道大会で賞を取れば、真っ先に誰よりも喜ぶような人間だ。そういう心映えの良い兄のことが、母は誇らしく目の中に入れても痛くない。
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