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放っておいても何でも出来てしまう次男は、兄のことで一杯となっている母の目には入ることが無くなり、兄が受験体制に入ってからは何事においても二の次にされるようになった。
俊吾自身は、構われるよりも放っておかれる方が気楽でよかったが、善人の兄からすると、今度は弟が不憫になる。
俊吾の待遇を見かねた兄が、母に強く意見してくれたことは嬉しかったが、その時の母のなんとも表現しがたい表情が、今でも俊吾の目に焼き付いている。
そんなとき、事なかれ主義の父は何も言わない。仕事仕事と言いながら、診察室に籠もってしまう。優しい人だが、その分解決力が決定的に無い。
三者三様の追っかけっこの感情が入り混じり、俊吾が高校に入学する頃になると、何となく家庭がぎくしゃくすることが増えていった。
もし自分がアルファでさえなかったら、また違っていたのかもしれない。優しい兄に敵わない、威勢が良いだけの弟であったら、良かったのかもしれない。母親はきっと苦笑しながらも、俊吾のことを優しく認めてくれただろう。
本当に良き母親でありたいとだけ思っている人なのだ。俊吾自身がそれは一番分かっている。感情面以外では、全く分け隔てなく育ててくれた。
だが一方で、生真面目で四角四面な母親の性格は、どうにかして解決することは無いのも分かっていた。永久に相容れることないと感じていたが、表立って反抗的に振舞うほど、俊吾はガキでもなかった。
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