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当然、俊吾は最上位の成績で合格し、入学式でも新入生代表を務めるよう推薦されてしまい、困惑した。出来れば目立たずに入学したかったからだ。ちょうど入学式のすぐ後に、剣道の大会が行われることに託けて、俊吾は辞退しようと試みたが、学校に押し切られてしまった。
その後も、件の剣道大会で優勝して朝礼で表彰されたため、結局俊吾のことは『すごいアルファが入学した』として学校中に知れ渡ることになった。
そんな勉強が出来て、スポーツも得意で、明朗な性格で頼りがいがあり、人好きのする男は、得てして集団から浮き上がりがちだが、俊吾ほどになれば、逆に僻まれもせずに尊敬される。良い仲間にも恵まれ、俊吾にとってこの高校はとても居心地の良い場所となった。
一方で、高校生らしい淡い恋の思い出もある。今思い返すと、鼻の中がこそばゆくなる。そして、ほんの少し胸が痛む。
俊吾が柄でもないセンチメンタルな気分に浸っていると、校庭の方から風に乗って花の香りがした。
その方面には疎いので何の花かは分からないが、柔らかく少し甘やかな印象だ。花というよりは果実だろうか。熟す前の爽やかさを感じた。。
俊吾は香りのする方に身体を傾けて、学校の中を覗き込もうとした。
「高島くん?」
背後から突然声が掛かった。聞き覚えのある、少しかすれた中音の声だ。
振り向くと、通用口から覗かせた、懐かしい顔がそこにあった。同級生だった井上玲だ。
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