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「全然すごくない。調子に乗って芸大なんかに進学しちゃったから、教職の就職先が見つかっただけでもラッキーだって思っている。すごいのは、高島君の方だよ」
「俺? 俺、今無職だぜ」
「はは、言ってら。心臓の専門医になったって聞いたよ。さすが自慢の同級生だ」
大柄な俊吾に対峙し、玲は尊敬の念を籠めるように、彼に合わせて目線を上げた。玲も決して小柄な方ではないが、どうしても俊吾とは違う。
クラスは一度も同じになったことは無い。だけどお互いのことをよく知っている。表現しがたい関係性だ。
この田舎の高校の中では、俊吾と玲はどうしても目立つ存在だった。飛びぬけた才能と周囲とは明らかに異なる容姿を、お互いに持っていたからだ。だから、敢えて人前では深く交わらないようにしていた。
学校の一番端にある美術室は秘密の場所だ。そこでの穏やかな時間が俊吾の頭を過った。自分と玲と恩師と……。
「何だか……お前さん、変わんないな」
俊吾は、何とか自分の前を行く玲に語り掛けた。玲は俊吾の方を振り返らない。
「嘘だ。ちゃんと歳を取ってるし……」
「10年ぶり、いや、もっとか……」
確かに年齢は重ねている。俊吾はもちろん高校生の時の自分ではないし、目の前にいるこの人も、その年数分の経過が見えた。ただそれは、単に歳を取ったという言葉で言い表してはいけないものだと感じた。
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