2 First Love

1/19
前へ
/322ページ
次へ

2 First Love

 キスはしなかった。もちろんそれ以上も無かった。だけど今ならわかる。それは間違いなく、自分の初恋だったのだ。  卒業式の日、玲はたくさんの友人に囲まれながら校門を出て行く俊吾の姿を眺めていた。言葉一つを掛けられず、ただ見送るしかなかった背中は、集団から一つだけ飛び抜けて大きくて、どれが俊吾のものかすぐに分かった。  玲にとって俊吾は特別な存在だ。  入学式で同級生にアルファの生徒がいるということを知ったとき、玲はとても驚いた。自分が受かった高校は、アルファが入学するはずの無い高校のつもりだったからだ。  一方で、玲にだって一人前の好奇心はある。話に聞くアルファとは、実際にはどんな人間なのかとずっと思っていた。  司会の教師が彼を紹介するマイクの音が籠っていて、名前はよく聞き取れなかった。座っていた席からは遠くて、顔もよく見えなかったが、同級生とは思えない体格と、よく響く力強いにドキンと胸が高鳴った。  きっと彼は特進クラスで、普通の進学クラスの玲とは教室のある棟からして違う。学校は一緒でも、この先ほぼ会う機会はないと思うと、何故か少しがっかりした気分になった。  玲は、中学の時にオメガと判明した。しかも希少な男性オメガだ。  オメガにとってアルファは特別な意味を持っている。アルファとオメガは遺伝子レベルで組み込まれた特別な関係がある。お互いの香りが、内に眠っている欲に火を点け、求め合う存在だ。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!

236人が本棚に入れています
本棚に追加