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兄とは連絡が取れなかった。どうやら電波の届きにくいところへ行ってしまったらしい。
「コトちゃん、大変だったね」
久寿がいつもより早く帰ってきてくれて、琴葉の肩を抱いてくれた。
田中誠太朗の調子が悪くなって、今は脳波を精密に調べているところだった。彼が意識を失うことになった事件の直後から、植物状態と言われていて、脳へのダメージ具合から、もし意識が戻っても会話ができるようになる可能性はゼロに近いと言われていた。
これまで何度か呼吸が止まりかけ、そして今日は静かに止まった。
今のところ、唯一の血縁者と証明されている正寅の連絡が取れないため、以前に希望した内容どおりに延命処置が施されている。が、もしかしたら、このまま脳死判定となる可能性もあると医師は言っていた。
「マサ、電話に出てくんなくて」
「うん、自衛隊に同行してるらしいから、そっちから連絡取ってもらってる。夜中になるかもだけど、連絡来たらこっちに回してもらうから」
久寿は琴葉をねぎらうようにポンポンと背中を叩いてくれた。
「自衛隊か……何やってんの、マサ?」
琴葉は不安で涙が出そうになった。
「それは機密って教えてくれなかった。ごめんね」
「トシ君のせいじゃないよ」
「うん、でも……コトちゃん、あんまり無理しないようにね。何か食べられる?」
「食べるよ。何があっても、食べるっていうのが御崎家の家訓なんだ」
「それはいい家訓」
久寿が言って、琴葉は微笑んだ。
お腹の赤ちゃんのためにも、ちゃんと健康的に食べて寝ないと。
「でしょ?」
マサも言ってた。食えるときに食って、寝られるときに寝る。そうやって生きていくしかないんだ。
いろんな現場を見てきた兄が言うと、普通のことなのに何となく名言ぽいのがシャクだったが。
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