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翌日も兄とは連絡が取れなかったが、どうも業務連絡という形で、桜庭が連絡できたようだった。
「元気そうだったよー。なんか機密情報扱ってるらしくて、家に電話できないんだって。スマホも没収中らしいよ。かわいそう。今はもう本部に戻ってるらしくて、あと何かの残務があるから終わったら帰るって。そうやってずるずる、もう二週間になること、自覚してないよね、けけけ」
桜庭は通話口の向こうで楽しそうに言った。
琴葉はちょっと嫉妬しそうになる。桜庭は兄の言動を簡単に予測してしまう。それなのに心配することが少ないのは、きっと兄のことを信頼しているからで、兄も桜庭には恋人関係を解消した後も遠慮なくストレートショットを放つから、本当にお互いに信頼しているのだと思う。
どうして別れたんだろ。
そう思いながらも、琴葉は桜庭の報告に耳を傾けた。
「ララさんの話をしたら、喜んでたよ。リク、って言ったらなんか恥ずかしがってた」
琴葉は呆れて笑った。何だ、この2人。恋人じゃん。
「いっぱい名前が増えて喜んでんでしょ。マサ、そういう変なとこあるから」
「さすが妹。そうみたい。まだもうちょっと日本に帰れないってなって、テンションおかしくなってるのはあるけど、とにかく笑ってた」
「ストレス溜まってんなぁ」
「ま、それはいいとして、鳥羽っちの状況も伝えたし、こっちで調べたことはだいたい全部伝えたよ。お守りの石のことも分かる範囲で教えた。ご先祖が旅路の安全を祈って大事にしてたって言ったら、早く帰るために自分も取りに行くだって。バカじゃん?」
「セイさんがもう起きないかもって……ショックそうだった?」
「うん、それは絶句してた。早く帰りたそうだった。仕事、さっさと片付けて帰るって決意してた。できるのかは謎だけど」
「石、取りに行くって、どこにあるのかわかってるってこと?」
琴葉は驚いて聞き返した。
「いやぁ、どうだろうね。あの感じは当てずっぽうぽいけどね、それでも見つけちゃうのがトラだよね。海、行くって言ってたよ。なんか近くに、WACさんがいて」
「ワック?」
「うん、誘ってた。海、行きませんか?って。なんかお詫びに付き合ってくださいとか言ってた。トラ、疲れて頭がおかしくなってるから、調子に乗って強引に誘ってた。困ってたよ、たぶん、その子」
「あ、かわいい子」
琴葉は目を見開いた。それは一緒に聞いていたかった。
「あれ、知り合い? 声しか聞いてないけど、かわいい子っぽかった」
「そっかぁ」
「コトちゃん、でもあれはリゾラバだよ。テシェルでちょっと非日常だから盛り上がってるだけ、というか、トラが1人で盛り上がってるだけ。テンションがおかしくなってるから」
「確かに」
琴葉は頷いた。兄の恋はそういうことがよくある。
「今回、私は派遣されないんだけど、明日派遣される予定の班に知り合いいるから、トラのこと見て貰うよ。昔からトラのこと知ってる人だから、トラが精神的にやられてたら、何とかしてくれると思う」
「何とかって……?」
「だから、石、あげるとかだよ」
桜庭が言って、琴葉は苦笑いした。石をもらって喜ぶ兄を想像できてしまう。
「トラは簡単でいいねぇ」
桜庭が満足そうに言うのを聞きながら、琴葉は兄ができるだけ早く帰国できますようにと祈った。
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