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中央アジア系の人たちが暮らす町。
そういったスポットは全国各地に大小あるようだった。そこには小さなコミュニティができ、リトル何とかという日本の中の小さな外国ができ、そして周囲との軋轢やトラブルもあって、子どもたちは日本語がわからずに学校で苦労していることも多いようだった。
そうやって貧困も生まれてしまう。
田中が生まれたと思われる場所もそういう小さなコミュニティだった。
元々は、従業員30人ぐらいのリサイクル工場があって、そこに最初に入ったのが内戦から逃れてきたイラン人の家族だった。そこからは数年ごとにイランの人々が増えた。その周辺にルーツを持つ外国人も徐々に増えた。
15家族ぐらいに増えたとき、小さなトラブルから排斥運動が盛り上がり、ちょうどリサイクル工場も廃業してしまい、コミュニティは崩壊した。
シングルマザーだった田中の母も町を出て、そこからどうなったのかわからないが、おそらくあちこち彷徨ったあと、正寅の父親となる男と出会う。書類上の結婚は記録されていない。そもそも、田中も正寅も戸籍がない。母親であろうと思われる女性のことも、推測だ。
古い小学校はおそらくずいぶん前から廃校になっていて、その門には有刺鉄線が巻いてあった。それでも構わず中に入っている人はいるようで、周囲の塀や校舎の壁にはスプレーで卑猥な落書きが重ねて書かれてある。
「こらこら、喧嘩しない」
目の前で小学生ぐらいの子が3人で塊になって叩き合っているのを見て、琴葉の横を歩いていた桜庭が止めに入った。
3人は桜場に止められ、桜庭を警官か何かだと思ったようで、外国語で罵って走って逃げていった。それを少し離れたところで見ていた、暇そうに道端で話していた男女が笑った。
「あ、ねぇ、ねぇ、この人知りませんかぁ?」
桜庭が男女と目が合ったらしく、ガンガン入っていく。手にはスマホがあり、幼いときの田中の写真と、おそらく田中と正寅の母親であると思われる、青井カナのものと思われる写真をスクロールして見せている。
ろれつの回らない男が何か言って、ヘラヘラ笑った。周りの他の面子も酔っているのかラリっているのか、ゲラゲラ笑う。
「やー、ダメだね。ここじゃないかもだしね」
桜庭が戻ってきて言った。
「優子ちゃん、あの人たち、怖くなかった?」
「へ? なんで? 笑って楽しそうじゃん。あとね、鳥羽っちかわいいから、みんなに見せるって言ってた。拡散してくれるってことだよね」
「あ……すごい、優子ちゃん」
「マイノリティだからこそ、コミュニティは小さいから、すぐわかるかもよ」
桜庭がウインクするように顔を歪めて言って、琴葉は嬉しくなった。確かに。
「この辺はもう見たし、疲れたでしょ、お茶しにいこう。あのねぇ、素敵なお店が駅前にあるんだよね」
桜庭が言い、琴葉も確かに疲れてきていたから、頷いた。
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