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どうやらこちらの世界では、人工呼吸や心臓マッサージに似た、魔力で生気を移し替える術があるようです。
本来は使用者に負担があるため、よほどのことがない限りするものではないのですが、そんなこと構ってられません。
クゥコさんが口移しで生気を注いでも、ヤォさんの呪いが強いのか魔力を打ち消してしまうようでした。
絶望に身体も心も芯から冷え切った中、止めどなく降ってくる土砂降りの雨は容赦なくヤォさんの顔を濡らしていきます。
そこにはきっとクゥコさんの涙も含まれていたのかもしれません。
その頃には到着した長谷さんも合流して、とにかく少しでも濡れない場所に移動しようとなったとき、突如ヤォさんは息を吹き返したようです。
激しい咳と息づかい、痙攣する四肢、それから吐瀉したものに、二人は戸惑いを隠せなかったようです。
クゥコさんはヤォさんが蘇ったこと。
長谷さんは、吐き出された欠片について。
「欠片?」
クゥコさんと長谷さんの話を聞いていると、――また寝息が。
随分と静かで茶々を入れてこないと思ったら、ヤォさんはクゥコさんの肩に眼を閉じて凭れ掛かっていました。
さながら電車の席で隣人が居眠りをかくような。
「気にしないで」
クゥコさんからしたら、信頼されている証なのでしょう。
それに少しでも側にいたいという雰囲気が伝わってきます。
頃合いを見計らったかのようにミクャさんが毛布を持ってきて、そっと掛けにきました。
それでも起きないあたりよほど深い眠りに入っているのでしょうか。
「ミクャんも休んでいいよー」
皆の視界の端に入らない絶妙な場所で、ミクャさんは起立して控えていたことに、長谷さんも声をかけます。
「ですがお客様をご放念するわけには」
雑談が盛り上がってしまいましたが、さすがにお開きにしないと執事であるミクャさんも休みことが出来ないのでしょう。
まだいろいろと聞きたいことはありますが、いったんお開きにした方がいいですよね。
「いいよー。勝手に自分たちでどうにかするから。それにミクャんはヘィちゃんの執事なんだから、起きた時にとびっきりおいしいフレンチトースト用意してあげて。それに僕たち多分寝れないと思うし」
「――左様ですか。ではお言葉に甘えて失礼させていただきます」
押し問答をしても仕方ないのと長谷さんの気遣いに、ミクャさんは二杯目のハーブティー(今度は柑橘系)を淹れなおして、退出していきました。
明日(?)は、フレンチトーストをいただけるのでしょうか。――などと食い意地が張ってしまっている自分をはしたなく思いながら、夜は更けていきます。
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