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「悪い悪い。なんかしんみりさせちまったな」
押し黙ってしまった私に気を使って、ヤォさんは明るい雰囲気で場を和ませようとしますが、いかんせん無理です。
「すみません。軽率でした」
なんと答えていいのか、クゥコさんの壮絶な過去を知ってしまい、気まずさが半端ないです。これからどうクゥコさんと接すれば。気にしすぎてなかなかに不器用な性格なのです。私。
にしてもソゥラ教は話を聞くに大きな存在のようです。それが十年二十年で、各地に布教するものなのでしょうか?
訊ねるとソゥラ教の設立はおよそ二百年前とのこと。
――この時点で、クゥコさんの年齢は外見年齢とは異なるのですが、異世界ですし。
そうするとヤォさんの年齢も、外見と実年齢が異なるのかもしれませんが、怖いので聞くのはやめましょう。
とにかく私よりは年上でしょうから(なぜなら私はこの世界、生まれたてということで)敬意は払います。
「ま、クゥとはそれなりに楽しく暮らしてたんだけどな、ソゥラ教を離れると遅効性の呪いにかかるんだよ。けほっ」
その咳は呪いということでしょうか?
「ソゥラ産の食べ物や水には浄化の作用があってな、それを常用してる限りは呪いに掛かることはない。逆に効果のある飲食を絶ってしまうと、この世界の呪いを受けてしまうだよなぁ」
「え、この世界は呪われているんですか?」
そんなことを聞いてしまっては、お気楽な異世界ライフを送れないじゃないですか。
不安になり詳しく訊ねると、竜の奇跡は確かに存在しますが、竜の呪いも存在するとか。
ソゥラ経典に記されている『竜の涙』の奇跡。それは本当なのでしょう。けれど長い年月の間には秘された出来事も、実在するのです。
クゥコさんの存在のように。
「始竜の姿を見て、よからぬ考えをする輩もいるわけだな」
珍しいものを入手したい蛮人ら。
不意を突かれた始竜は、少女を守った際に命を落としたようです。
その後、爪や牙、鱗や血、骨、あらゆるものをバラバラにされ各地に運び出されたようです。
天に還れなくなった竜の願いは、やがて嘆きとなり呪いへと変化していったとか。
竜が放つ瘴気がそのまま人には毒となったのでしょう。
だからこそ皆、ソゥラ教に入信し命の安心を得るのだとか。
クゥコさんの御母君はその際のショックが原因で、心を病んでしまったようです。
ゆえにクゥコさんの色彩は、その時の出来事を思い出し、彼自身が忌避の存在になってしまったのだとか。
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